敬語は國語研究の迷路である(國語學原論)。平安朝散文學に用ゐられた敬語についても、多くの勝れた研究が発表されながら、依然として不明な点や未解決の問題を残してゐる。本稿は、前稿「下二段活用給フルの用法――特に語の接続から見た場合――」(島根大學論集・人文科學第一號)に引き続き、給フルの意義を考察し併せて侍リの用法に及んだものであるが、これまたいはゆる迷路をさ迷つて彼岸に達せず、わづかに拾ひ得た落穂の記録に過ぎないであらう。取扱った資料は物語・説話・日記・随筆の全部に亙ったが、中心をなすものは源氏物語である。