島根大学法文学部紀要. 文学科編

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島根大学法文学部紀要. 文学科編 15 1
1991-07-25 発行

迷いの諸相(1)

Decisions in a CG maze : An Ethological Study(1)
ファイル
a003001501h005.pdf 2.42 MB ( 限定公開 )
内容記述(抄録等)
人はよく迷う。様々な場面で,様々な内容について迷う。それと知って迷うときもあれぱ,迷っていた自分に後で気づくときもある。一人で迷うときもあれぱ,大勢で迷うときもある。迷うことが楽しいときもあれば,悲惨な結果を招くときもある。
 誰もがどこかで一度は経験する心の動きであるにもかかわらず,「迷い」について分かっていることは少ない。だから我々はいまなお迷う。よく分かっていない原因の一つは明らかにその多様性にある。迷う場面だけを,あるいは迷う内容だけを考えてみても膨大な数の「迷い」がありそうである。
 しかし迷い方まで十人十色であろうか。場面や内容を限定すれぼ「迷い」の共通パターンがいくつかあるかも知れない。そう考えるからこそ時に我々は自分の「迷い」を人に相談する。
 本研究では「迷い」を心の動きの一つと考え,「誰もが迷う」迷路に場面と内容を固定してそのパターンを探ってみたい。パターンを描き出すための要素は個々の反応とその間隔である。日常生活においてよく行なわれるのと同様に,迷っている人の姿や行動を通してその人の心の動きを推し量ってみた。ただし日常生活と違って,採り得る反応はどれもできるだけ単純な,要素的なものにし,その種類も最小限にとどめた。迷う心の動きが,できる限り正確にそのままの形で外に現われるようにするためである。
 同じ理由から本研究では,実物の迷路ではなくコンピューターのディスプレイに展開する仮想迷路を用いた。仮想迷路において人が選択する反応は,実物の迷路における行動に比べて,それぞれの時点における判断をより純粋に映すものと考える。
 参加した被験者は,自分一人で迷うことを承知で迷路に入ったが,部分的には,迷っていることに気づかないような反応も示している。側から見ていて納得のできる反応もあれば,後に当の本人でさえ説明できなかった反応もある。後半の試行において,他者からのアドバイスに全面的に頼ってしまい「迷う」ことを放棄した人もいれぱ,あくまでも自分一人で迷い通した人もいる。まず被験者一人一人について,個々の反応をもとにこのような迷いの諸相を描き出すのが本稿の目的である。