島根大学教育学部紀要. 自然科学

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島根大学教育学部紀要. 自然科学 21
1987-12-25 発行

イオンと溶媒の相互作用に関する研究(IV) : 電気伝導率の測定と電解質のイオン会合平衡

Studies on lon-Solvent Interactions(IV) : Measurements of Electrolytic Conductivity and lon Association Equilibria of
坂本 一光
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内容記述(抄録等)
 電解質溶液の電気伝導性研究の歴史は古く,19世紀初めにまでさかのぼる。電気伝導率の測定は,比較的容易で迅速かつ正確に,しかも希薄溶液(<10>^<-4>~<10>^<-2> mol <dm>^<-3> 程度)で行うことができるため,今日でも,イオンーイオンおよびイオンー溶媒間の相互作用を熱力学的に解明するための有力な手段のひとつとなっている。溶液の電気伝導性は,溶液中のすべてのイオンによるものであるから,電極電位の測定の場合のように,特定の指示電極を用いて特定の物質の濃度のみを測定するということはできない。しかし,電気伝導率は電解質の種類や濃度によって変化する。したがって,この変化を追跡すれば,容量分析における終点の決定を行うことができる。この方法を電気伝導率滴定[導電率滴定](conductometric titration)といい,酸一塩基,沈殿,錯形成反応などに広く応用することが可能である。また,電気伝導率の濃度依存性の解析から,イオンの移動度やイオン会合定数を知ることができる。これらは,イオンの溶媒和に関する重要な情報となる。
 本論文では,最初に,電気伝導率の測定原理と理論式,関連してイオン会合の理論式などを取り扱う。電気伝導率の理論,測定法については,文献1)~5)などが参考となろう。
 イオン会合定数は,溶媒の誘電率やイオンの大きさなどによって変化する。また,イオン会合平衡(自由イオン→←溶媒介入イオン対→←接触イオン対)の最も安定な位置も,イオン−溶媒相互作用の強さに依存する。これらの効果を定量的に説明あるいは予測することは,今のところ非常に困難である。ほとんど不可能と言ってもよい。しかしながら,イオン会合の仕方が全くのでたらめであるはずはなく,イオン会合平衡をイオンと溶媒の種類によって幾つかのパターンに分類することは可能である。
 本論文のもうひとつの目的は,主として電気伝導率法によって研究された各種溶媒中のイオン会合平衡を概観し,それらを通してイオンー溶媒相互作用の特徴を明らかにすることである。イオン会合の陽イオンおよび陰イオン依存性,溶媒介入イオン対と接触イオン対の平衡,混合溶媒中のイオン会合などをとりあげる。