心身症は,l970年に日本精神身体医学会において,「身体症状を主とするが,その診断と治療に心理的因子についての配慮がとくに重要な意味をもつ病態」と定義されている。さらに,「身体的原因によって発症した疾患であっても,その経過に心理的な因子が重要な役割を演ずるようになった症例は,心身症として扱ったほうがよい」とされている。その症状,病態はさまざまで,胃潰瘍,気管支喘息,関節リウマチ,皮膚炎などは,その代表的なものである。特に,小児心身症は,「心理的要因が強く関与し,心身反応(あるいは,精神生理反応)の障害(不適応状態)として,身体症状,疾患,神経性習癖などを現わし,心理的治療や環境調整がきわめて有効と予想される病態である,」と云われている(高木1985)。
心身症の症状形成のメカニズムについては,生理学的立場から,キャノン(Cannon, W.B.)の緊急反応,セリエ(Selye,H.)の汎適応症候群などの理論がある。また心理学的にも,精神交互作用(森田理論),暗示作用,転換メカニズムなど考えられている。
更に,子どもに心身症が起こりやすい理由として,高木は,発達的観点から次の5項目をあげている。
(1)精神身体ともに未熟,未分化で,その反応は全体的で極端,種々の障害を起こしやすい。
(2)間脳および大脳辺縁系(旧皮質)に比し,大脳新皮質の発育が不十分であるため,感情を理性で統御することが非常に困難である。
(3)子どもの発達は決して直線的ではない。幼児期(3~5才)および思春期は,ホルモン系の機能的変化が著しいので,ホルモン系,自律神経系,情動などの機能のバランスが乱れ,障害が起こりやすい。その結果,心身機能における不適応反応や問題行動が多く発生する。
(4)発育の旺盛な時期には,生のエネルギー(成長・発達の潜在力,衝動など)と外部環境との摩擦や抑圧によって欲求不満が起こりやすいので,このとき心身の不適応反応が現われる。
(5)子どもは経験に乏しく,いろいろの事態を正しく理解し,適当に調節し処理することが困難である。心理的防衛機制の発達も不十分である。
心身症の治療には,特有の治療法があるわけではないが,特に子どもの場合,親の参加がきわめて重要であることは,臨床的に充分実証されている。また近年,家族全体を治療対象として治療が展開される精神療法が,家族療法あるいは,家族カウンセリングとして注目されるようになってきている。
筆者は,子どもの問題で来談した母親に,母親面接を行なうことの有効性について,一吃音児の母親の治療実践を通して考察した。(大西,小椋,1982)
本稿は,慢性尋麻疹の子どもの治療に来所した母親に対して,子どもの治療と並行して行なった母親面接の経過を述べ,母子関係の変容と子どもの症状の変化,また症状発生の要因について考察したい。