島根大学教育学部紀要. 人文・社会科学

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島根大学教育学部紀要. 人文・社会科学 19
1985-12-25 発行

性役割について(I)

A Study on the Sex-role(I)
猪野 郁子
荊尾 千恵子
ファイル
内容記述(抄録等)
 人は生まれながらにして,生物学的にいずれかの性を持っている。この肉体的な形状や機能などによる生物学的な性差とともに,その発達過程で,自分の性に特徴づけられた行動様式や物の考え方・感じ方などを取得していく。
 一方の性に他方の性よりもより特徴づけられている行動様式や物の考え方・感じ方を「性役割」と呼んでいる(「性別役割」という表現も用いられているが,「性役割」と同義語である。心理学の分野では「性役割」が一般に使用されているので,ここでも「性役割」を使用する)。
 この性役割の取得には,D・B・リンによると,(1)生物学的要因 (2)親子関係(3)文化的強化の3要因が相互に作用しあっているとされている。
 柏木は,自分の性にどういう役割が期待されているのか認知し,さらにその役割をどのように演ずるかの学習(性役割学習)は,子どもが出生以来遭遇するさまざまの社会的場面,対人関係の中でなされていくこと。中でも,親との同一視一特に同性の親をモデルとする同一視は最初で重要な機会である,と述べている。
 性役割の取得や学習は,年齢が幼なければ幼ない程,親の養育態度や価値観などが大きく影響すると言えよう。
 もちろん,親自身のもっている男性役割観・女性役割観には,自らが育ってきた社会の文化的価値に大きく左右されているから,時代や文化が性役割取得に影響していることは言うまでもあるまい。
 さて,現代,子どもや子ども社会に起っている様々な問題行動の背景に,親子関係の希薄化と親の役割の欠如−特に父親の役割の欠如があげられている。
 パーソンズによると,父親とは家庭(子育て)で,家庭と社会を結ぶ役割,社会の価値や禁止を子ども達に取り入れさせる役割−道具的役割を果たす人であると考えられている。
 そして,M.E.ラムが,いくつかの研究結果から,性にふさわしい行動を取らせようとする時には,母親よりも父親の方がより関与していることを見い出しているように,道具的役割を果たす父親は子どもの性役割発達に大きく関わるようである。
 父親がその任務である道具的役割を果たすことが,男児に「男らしさ」,女児に「女らしさ」を育てるとするならば,父性欠如はどういう結果をもたらすのであろうか。
 この点を明らかにしていくために,まず,現代,「男らしさ」「女らしさ」あるいは男女の性役割がどのように認識されているか把握する必要があろう。
 勿論,男児が「男らしく」女児が「女らしく」ある必要があるかいなかについての議論も存在するが,研究をすすめていく上で結論が出てくるものと思われる。
 そこで,男女中学生と性役割取得に母親よりも影響のある父親を対象に,「男らしさ」「女らしさ」をどのようにとらえ,各々の性役割をどう認めているのか。父親と生徒の間にどのようなちがいが見られるのか。男女生徒の間ではどのようにことなるのかの3点についてまずみるために本調査を実施した。