本研究は,ここ10年に渡って展開された教科内容学研究の動向と内容の全体像を網羅的に示し,その成果を基に教科専門教員の授業の在り方について筆者の見解を述べることを目的とした。そのため,まず現時点で筆者が把握している教科内容学研究の概要を,その定義をまとめることから始め,次にその「学」的研究の構造として,教科内容構成の原理が定立されるための「認識論的定義」や,基本認識としての「内容構成の柱」などから構成されることを,例を交えながら述べた。またそれ以外の教科内容研究も紹介し,専門内容が教科内容となるべき基本的原理が,専門研究としての内容の解体と教科として新たな体系性の構築にあることの共通性などに触れた。その上で教科内容学研究から教科専門教員の在るべき授業態度として「①人間にとっての学問の価値」「②学問の内容構造の客観的把握-メタ化」「③学問史の中に入る」の3点から授業を導くことであると提案した。また自らの教科内容構成案を,専門研究者としての基盤に立ち,専門教員としての意識を持ち,教科内容教員として授業内容を構成し授業を行う道筋として紹介し,具体的な美術の構成原理を示した。最後に派生的研究として筆者の所属する学部の教科内容授業の批判と,今後の教科内容学の動向として大学院における教科内容学の在り方が求められることを述べた。