生徒の社会認識を育成する方法には,アメリカに代表される”社会科(Social Studies)”のような統合的教科を通しておこなうものと,イギリスに代表される地理科,歴史科等の分化した諸教科を通しておこなうものとの二つがある。日本は,前者の方法を採用しているが,社会科成立以後のその歴史をふりかえる時,社会科の改訂に際しては,統合よりむしろ分化の方向が強調されたといってよかろう。このような傾向を反映して,分野別学習強化の是非,地理科や歴史科へ独立論等,社会科の存廃をめくる重大な論争さえ発生し,しかも現在,解決されたとは言い難い。社会科の基本的性格をめぐる日本の今日的状況を考える時,一方の極にあるイギリスの社会認識育成方法の研究は,我々に多くの示唆を与えるものと確信する。
本小論は,イギリス(主としてイングランド)中等学校における歴史教育をめぐる諸理論の特質を解明し,イギリスにおける社会認識教育研究の第一歩とすることを目的としている、
研究方法としては,資料的には,4や5に代表される現場レヴエルでの資料,1や11に代表される学界レウェルでの資料,3や21に代表される教育行政レウエルでの資料という二方面の資料からアプローチし,各歴史教育(学習)理論に,歴史の定義,歴史(科)の構造,教育における歴史(科)の価値,歴史教育の目的,実践例とその検討という五つの分析視点を設定,検討し,その理論的特質を解明していく方法を採用した。なお General Studies 論,Social Studies 論に対しては,これらの理論の独自性と特異性を考慮して,上記の分析視点の適用を避け,第四章と第五章で別途に考察する