島根大学教育学部紀要. 教育科学

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島根大学教育学部紀要. 教育科学 5
1971-12-20 発行

子どもの量概念の形成と比較能力の発達

Forming of the Concept of Quantity and the Development of Comparison Ability in Children
井藤 芳喜
ファイル
内容記述(抄録等)
 子どもの科学教育の必要性やその教育の可能な内容を論ずるにあたっては,まず子どもたちが科学教育に必要な基礎概念を確立する時期など,いわゆるかれらの科学教育に対する readiness を考慮しなければならない。最近,早期科学教育の必要性や,5才児入学に伴う幼年期の科学教育が再検討されつつあるが,高度の科学の内容が無制限に低年令児に消化されるものではなく,その限界も見極める必要がある。また,教育内容の決定や学習指導に際しては,当然のことながら子どもの発達の状態を考慮しなければならない。
 わが国の最近の子どもについては,これらの発達の状態を調査した文献が極めて少ない。従って,われわれは今後,これらの子どもの発達の状態を調査し,教育の基礎条件を確立しようとしている。今回はその手始めとして,子どもの量概念の確立の時期や,量の比較の可能な時期について調査に着手した。
 理科における量概念は,距離,面積,体積等の具体的な量概念から,温度,圧カ等の感覚量,さらに熱,電気等の抽象的量概念まで考えられる。これらの種々の量概念の把握の程度は,年令によって著しい差があり,しかも個人差も大きい。また,低年令児においては量の比較さえできない者がある。これらの量の概念を確実に把握さすことが,理科教育の目標の一つともいえる。昨年から今年にかけては,これらの量概念の基本である「量の保存」の概念の成立の時期と,長さや面積の量の比較の能カについて,子どもの実態を調査した。
 量の保存の概念については,これまでにピアジェが,形の異る容器の同量の液体が,異った量として把握されていることを調査し,わが国においても2,3の追試的な調査はなされているようであるが,最近の児童の発育状況や地域差により,多少の変動があるものと推定し,これまでの調査方法を参考にしながら独自の調査を試みた。なお本調査では,量の保存の概念が成立した者の割合を年令別に表にして,一般的発達の傾向を示したことが大きな特徴である。量の比較については,長さと面積の大小の比較が正しくできるか否かを,これもその割合を年令別に表にして発達の傾向を示した。
NCID
AN0010792X