島根大学教育学部紀要. 教育科学

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島根大学教育学部紀要. 教育科学 22 2
1988-12-26 発行

授業における教師の「表現的」行為と「演出的」行為(1) : アナロジー・モデル化への考察を中心に

Features of Depiction and Production as Characteristics of Teaching
権藤 誠剛
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内容記述(抄録等)
 教育のあり方,教えることの論理と構造について,従来からさまざまな考え方や捉え方が示されてきており,十人十色とも言われるように,十人が十通りの主張,理論でもって展開しているともいえる。その中で,とくに記述の仕方として,自らの主張や理論をわかり易く説明するために,身近で具体的な事象を例にあげながら論を展開していく場合が多く見られる。ある場合には,手細工の技能を,またある場合には,植物の栽培の仕方を,そして機械生産技術を比喩としながら,あるいはモデルとしながら,教育についての,教えることについての説明を加えている。
 こうした類比やモデルによる説明,説得は,言うまでもなく,教育の分野に限らずごく一般に行われているものである。
 類比すること(モデル化すること)は,主に主張や論を相手にわかり易く説明するために用いられる。したがって,類比そのものは,あくまで類似した関係をもったあるいはもつと見られる事象間の要素や性質,関係の共通する徴長を述べているにすぎず,それをもって,論証することはできない。それはあくまで蓋然的な結論であって,法則的な証明にはなりえないと言える。
 他方,類比は,単なる「たとえばなし」によってわかり易い説明を加えるだけでなく,二つの事象間の表面的ではない本質的特徴に基づいて比較される場合,ないし側面がある。理論的なこと,抽象的なことを身近で具体的なものに置きかえてわかりやすくすることを,縦の関係(理論・抽象→具体)での類比であるとするならば,本質的に類似した事象間での類比は,横の関係でのそれであると考えられる。
 後者での類比は,類比を手がかりとしながら,事象の性質や関係,構造について未知なるものを発見する方法として有効な役割を果たす場合が少なくない。
 類比による叙述・表現は,思索や理論に関しての一定の説得力をもち,内容の理解を助ける働きをもち,もう一方で,一見複雑であるように見えるある事象の性質や構造,関係を,他の事象と類比させることで,比較的簡潔に主要な性質,構造や関係をきわだたせることが容易になる。しかも,時には,それまで見落されたり,見過されたりしてきた側面の発見や新たなる展開の契機を示すこともありうる。
 以下の論稿においては,類比モデルヘの考察を試みながら,教えるということのあり方,とくに今日求められる教師の教授行為の特性とその実践的形態を明らかにしていきたい。