島根大学教育学部紀要. 教育科学

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島根大学教育学部紀要. 教育科学 17
1983-12-25 発行

器楽奏法における手動作の適性についての意義

A Study of Manual Factors in Playing Music Instrments and its Significance
知念 辰朗
ファイル
内容記述(抄録等)
 楽器演奏については,それぞれの楽器によって,奏法が異なる。例えばピアノと弦楽器の奏法を比べて見ると同じ両手を使っていてもその形や動きは全く異った運動をする。このように楽器は,種類によってそれぞれ違った運動により奏法が成り立っている。しかし現在の器楽指導法では,こうした身体運動についての科学的な研究による指導法は,あまり開発されていない。それは音楽家達にとって,この身体運動に必要な知識(身体生理学,運動生理学や,脳・神経学など)に乏しいこともあるが,どうしても自分の専門楽器に関する音楽内容に関心が片寄ってしまい,奏法にかかわる身体運動については関心が希薄になる。もちろん現在の指導法の中にも経験から生まれた身体運動的な練習方法もいくつかある。しかしこれらの方法が,はたして本当に効果があがる方法なのかどうかは,誰も科学的に証明していないし,そうしたデーターもない。もともとこうした一連の練習方法は専門家達にとって必要なものである。又恵まれた資質の生徒達に,より高度な演奏技術を獲得させるために考えられた方法である。だから多くの初心者にいきなりこうした方法を用いてもとまどってしまう。又子供を対象にした指導法についてみると「音楽の流れ」を中心にしたリズムや,フレーズ,又音の高低などをわかりやすく指導する方法論の研究は,大変進んでおりかなりの実績を遂げているが,身体運動についての科学的な研究はまだ手がつけられていない。この小論では,器楽指導における身体運動について考察し,楽器に対する適性とはどんなことか,又適性と才能との関連について述べてみたい。ところで最近こうした器楽演奏における〔手の形態と動作〕に関する実験・研究が,ハノーバー大学研究所に於いて進められ,かなりの成果が遂げられていることがわかった。早速問い合せたところ主任研究者であるCh.Wagner氏から大変好意的な返事と共に貴重な論文を数点送っていただいた。引用の諒承を得た論文の一部を翻訳紹介し,楽器演奏と手の運動について,今後の研究の指針にしたいと考える。
NCID
AN0010792X