Studies in language and culture : memoirs of the Faculty of Law and Literature

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Studies in language and culture : memoirs of the Faculty of Law and Literature 16
2004-02-27 発行

楊維楨『古楽府』における女性像について

On the Women in "Gu Yuefu" by Yang Wei Zhen
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楊維楨(一二九六−一三七〇)といえば、主にその猥褻、好色な詩がとりあげられて、文学史上論じられることが多い。
 吉川幸次郎氏も、『元明詩概説』(岩波書店 一九六三)第三章 十四世紀前半、元詩の成熟 第二節 楊維楨 南方市民文学の指導者、において「若い女性のエロスを、題材とする」「続奩集二十詠」の詩を引いて評価する。
いずれも常識のかきねをおしやぶった自由奔放の詩である。蘇軾を中心とする北宋の理窟っぽいごつでつした詩、それからの離脱であるばかりでなく、日常の常識に終始する従来の市民の詩からの離脱であった。
逆に、これらの詩をもって、楊維楨の文学を否定的に論ずることも出来る。『元代文学史』(人民文学出版杜 一九九一)の、楨紹基氏と范寧氏の執筆に係る、第二十二章 元代後期詩文作家(三) 第一節 楊維楨、においては、楊維楨の香奩体について、本来、詞の興起する自り後、婦女の服飾、体態を写するの作は稀罕と為さざるも、只だ是れ楊維楨の的の香奩詩中には、還お男女の事を描写する的有りて、未だ堕して悪趣に入るを免れず。
と批判する。その一方、後の部分では当時の戦乱の世で、酒色に溺れるのはやむをえまいと弁護を試みるが、ともかく、元以降現代に至るまでの、中国における評価の主流は、かかる下品な作を楊維楨がのこしたことを遺憾とするものであった。
 しかし、この種の作品のみを期待して、楊緯楨の集をひもとくものは失望するであろう。そこで扱われる女性の多くは、聖女や貞女であり、悪女や淫女は、読者の悪趣味を刺激する表現はあるにせよ、否定的に描かれる。一言でいえば、あまりに苛酷な道学者的道徳観に満ちている。
 厳正で道徳的な面と、自由奔放で非道徳的な面と、矛盾した二つの要素が、彼の作品には両立し、彼の実人生もまた然りであったようである。もちろん、人間存在は、諸矛盾の複合体であって、誰もがそうであるといってしまえぱ、議論は終わってしまうのであるが、それにしても楊維楨の場合は、矛盾のあらわれ方が特異であり、そこに意図的なものを嗅ぎ取ることも可能なように思う。
この矛盾の由って来たる所を、彼の所謂「古楽府」の作品群における、女性像を通じて考究してみたい。
テキストは、鄒志方氏の点校に係る『楊維楨詩集』(浙江古籍出版杜 一九九四)によった。但し、この書は、評や注を省略しているので、必要に応じて、他本も参考にした。
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