Memoirs of the Faculty of Law and Literature

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Memoirs of the Faculty of Law and Literature 17 1
1992-07-25 発行

流人平右衛門の遺書「国之家土産」について

On the Note Left behind by Heiemon, an Excile, "Kuni-no-ie Miyage"
Matsuo, Hisashi
File
a003001701h002.pdf 2.95 MB ( 限定公開 )
Description
江戸時代後期、十八世紀の末ごろ、但馬国城崎郡郷野村と伊賀谷村との間で山論があり、伊賀谷村の庄屋平右衛門が代官の裁定に承服せず、江戸へ訴え出るなど抵抗をこころみたため、代官によって隠岐国へ流罪に処せられる事件があった。ときに平右衛門は六三歳、それより隠岐国海士郡浦之郷村赤之江で二十三年の歳月を送り、その地で八六歳の生涯を閉じた。「国之家土産」は、七五歳の老境に達した平右衛門が、郷里に残る家族に読ませることを目的として書き始めた四〇葉(八○ぺ一ジ)にわたる和綴じの手稿本であり、おそらく隠岐に渡海して十六年の間父の世話をし最後を看取った平右衛門の次男弥蔵が、父の死後但馬へ持ち帰って伝来したものと思われる。
 残念なことに最後の跋文の部分が文章の途中で切れて後欠となっているが、序文の末尾に記されている目次様の文から推定すれば、失われている部分は一ないし二ぺージ程度のもので、ほぼ全体を残している史料と考えられる。内容は後述のように郷野村との山論の経過、代官に対する抵抗、逮捕、護送の状況、遠島の様子、隠岐での流人生活、家族等による赦免運動など多岐にわたっており、それぞれに裏づけ史料の発掘によって、従来不明であった史実を明らかにする糸口となる事項をかなり含んでいる。ひとりの流人の目と心を通して書かれたこれほどまとまった流人史料はあまり例がない。そのため本稿では「国之家土産」の遺存する全文を翻刻し、若干の考察を加えるが、平右衛門に関わる山論・遠島・赦免などの問題については、裏づけ史料の発掘を期し別稿にまちたい。