われわれは,ここ数年,「過疎」の問題を,地域研究の重要課題としてとらえ,総合的な調査をおこなってきた。そのなかで筆者は,住民の社会的意識を中心に調査報告をおこない,また,その補足として,農民の政治意識について別稿で報告してきた。そこで明らかになった過疎地域における農民の政治的要求は,要約すれば次のようなものであった。「崩れゆく地域を再生させるため,地域開発,産業の振興を熱望し,窮乏した地域での生活を安定させ,地域の経済カを増大させる。そのためにも,為政者は政治姿勢を正し,住民のための民主的政治をなさねばならないし,部落の住民も旧態依然たる体質,特に,利己主義,陰口,悪口,因習固執などを改め,部落集会,町政,県政,国政を民主的なものに変革してゆく必要がある。」
これらの諸要求が,実際の政治的行動として,どのように現われているかを,次の点から検討するのが本報告の目的である。(1)陳情・請願運動 (2)国会議員選挙への影響 (3)町会議員選挙への影響
調査対象地は島根県邑智郡邑智町で,(註3)の報告と同じ対象地域である。対象地の概要については,そこで述べたので省略する。また,この調査は1968年11月におこなわれたものである。