本論はPrince &Smolenskyによって提唱された最適性理論(Optimality Theory)に基づいて、ドイツ語の語末音無声化(Auslautverhartung)を考察するものである。この理論は、生成文法に属しているが、基底形の表示やその表層形への派生過程を重視する従来の理論とは異なり、もっぱら表層形に注目し、それが対応する基底形の実現として適格であるかどうかを問題とするものである。
ドイツ語の語末音無声化は、有声阻害音が一般に音節コーダにおいて無声化する現象である。しかしこのような環境にあっても、さらに別の条件が加わると語末音無声化が阻止される。本論ではまず、音韻語(Phonological/Prosodic word)内で共鳴子音の直前にある有声阻害音は音節コーダにあっても無声化を免れるという考え方から出発し、音韻語がどのような原理によって形成され、またそれが音節化に関してどのような意義を持つのかを考察する。次に、語末音無声化を引き起こす要因とそれを阻止する要因がどのようなものであるかを検討し、さらにそれらが音韻語とどのように関わっているのかを考える。
以上のような考察を進めることによって本論は、語末音無声化を引き起こす要因とそれを阻止する要因、さらにはこれらの現象の領域(domain)としての音韻語の機能が、最適性という1つの原理によって統合されることを示すものである。