本稿は,キリシタン文献のひとつである『サントスの御作業』について,過去助辞がどのように使用されているか調査した結果を述べて,本書のより詳しい文体研究の手がかりを得ようとする試みである。
本書は,正しい書名を『サントスの御作業のうち抜書』といい,1591年(天正19年)に九州は天草の加津佐コレジオから版行された二巻の大冊である。表記はローマ字で,所謂キリシタン版の最初の刊本として知られ,諸聖人の殉教に到るまでの宗教性の高い伝記を集めている。
テキストには,勉誠社版の複製本を使用し,福島邦道氏による『サントスの御作業 翻字・研究篇』の翻字文を参照した。以下の引用は,すべて翻字したものを掲げる。なお,複製本付載の「解説」および福島氏の『翻字・研究篇』に多大の恩恵を受けたことを記しておきたい。