盛永俊太郎・安田健編『享保元文諸国産物帳集成』(以下『集成』と略)第十六巻に「富山前田本草」と「陸奥国産色絵図」が収められている。両書とも形状、生態にかんする注記をともなった動植物の彩色絵図帳である。編者である安田健氏の指摘によれば、両書は江戸時代の享保元文年間に作成された複数の産物絵図註書帳から転写されたものを内容とする。
「富山前田本草」はその相当部分が筑前福岡領、備前備中岡山領、肥後豊後熊本領、伊豆国の絵図註書帳から写され、「陸奥国産色絵図」も伊賀国、隠岐松江領のものを写している。互いに比較すると、絵図はもとより註書の細かな部分まで忠実に模写されていることが判明する。
だとすれば、残る絵図註書もいずれかの国領の絵図註書帳から引かれたものと推定することが許される。まだ存在が知られていない国々の絵図註書帳がふくまれているとすれば、たとえ一部とはいえ貴重な資料となるであろう。