文で表わされる時間を考える際,これまでは合まれる動詞の時制形が主な研究対象とされてきた。これはReichenbach(1947)の登場以来みられる傾向であり,Declerck(1986)においても同じ路線での分析が行なわれている。しかしながら,文で表わされる時間は必ずしも時制形によって唯一的に決定されるわけではないことに注意する必要がある。以下の文を考えてみよう。
(1)a.John was lcaving for Paris.
b.I was meeting him.
上の文で時制は過去である。では,leave for Parisやmeet himという動詞句によって表わされる状況も過去と指定されるのであろうか。この場合,動詞句の表わす状況は時制が過去であるにも関わらず,必ずしも過去とはならない。このことは以下の例によって示される。
(2)a.John was leaving for Paris (yesterday.
(tomorrow.
b.I was meeting him(yesterday.
(next week.
(Palmer 1987)
この例からもわかるように,文で表わされる時間は,時制形だけでなく,時の副詞とも密接な関わりがあると考えられる。
この論文では,文で表わされる時間の時間指示のメカニズムを時の副詞(特に時点を表わす副詞)という観点から考察する。さらに,時間指定の点で興味深い特徴を示す時の副詞in NPの時間指示の機能について具体的に考察してゆく。