1980 年代ころより「知的障害児(者)の性」に関する国際的な研究や実践において、否定的な側面からのアプローチからの脱却および肯定的な視点からのアプローチを中心としたパラダイム転換がめざされるようになってきた。その流れをくみ、わが国でも研究や実践において上記視点からのアプローチが積極的に行われるようになってきた。しかしながら30 余年たった現在も、知的障害児(者)の多くが「性」という側面にのみ焦点を当ててみても、社会的に制約を受けていると指摘され続けている。
なぜパラダイム転換の効果が見えないのか。本稿では、学術論文や文献等に見られる「知的障害」および「性」に関する記述の規則性に着目することを通じ、「知的障害児(者)の性」に付与される、「知的障害」および「性」の構築を検証する。特に本稿では、「否定的な言説」や「健常 対 知的障害」というこの分野における記述の特徴に焦点を当てることで、将来的なこの分野におけるパラダイム転換の可能性について言及していく。