島根大学教育学部紀要. 人文・社会科学

ダウンロード数 : ?
島根大学教育学部紀要. 人文・社会科学 28
1994-12-25 発行

養護老人ホームにおける高齢者の生活と諸問題

The Problem of Aged' Life in the Protective Home for Aged
山本 眞一
田中井 敏勝
ファイル
内容記述(抄録等)
 1960年代の後半まで日本の高齢化率は5%前後で推移してきたが、1970年には7%に達し、1992年には12.1%となった。高齢化社会の到来とともに家族形態も変化し、1992年の世帯類型別に世帯の構成をみると、世帯総数4,067万世帯(100%)、親族世帯3,120万世帯(76.72%)て、そのうち核家族世帯は2,421.8万世帯(59.55%)、非親族世帯7.7万世帯(0.18%)、そして単独世帯939万世帯(23.09%)である。い時系列的に1960年以降の家族世帯の変化の特に大きいものは、夫婦のみ世帯の7.33%から15.48%へと単独世帯の16.10%から13.09%である。その変化をもたらした主な要因は、高度経済成長政策のもとでの労働力流動化にともなう親子の別居である。その結果、農山村部での高齢夫婦のみ、または高齢単身世帯の増加と、都市部での主として住宅事情に起因する高齢夫婦のみ、または高齢単身世帯と新卒労働者からなる単身世帯を増加させている。そして、2025年には高齢化率が29.38%、夫婦のみの世帯は17.81%、単身者世帯は27.22%と予測されている。2)
 このように高齢化と夫婦のみの世帯と単身者世帯の増加は、高齢者の扶養、介護等の機能を弱体化させて、高齢者を社会福祉の対象者としていく可能性を一層高めていくこととなろう。
 現在高齢者保健・福祉推進10カ年計画(通称、ゴールドプラン)がすすめられ、在宅福祉の方向が打ち出されている。しかし、上のように家族の扶養・介護力が多く期待できなくなる中で、社会福祉施設としての養護老人ホームは、心身の老化とともに生活自立度が減退していく高齢者にとって不可欠である。養護老人ホームの源流は1929(昭和4年)の救護法による養老院事業であるが、それから65年経過した。その間には慈恵的な福祉観による差別、恥意識による不当な処遇や、劣等処遇の非人間的水準等の諸問題があり、なお解決されていないものも多い。本格的な高齢化・長寿社会を迎えつつある今日、改めて社会福祉施設としての養護老人ホーム入所者のホームでの生活の現状について養護老人ホームS園の事例研究を通して検討し、今後の課題を明らかにしていきたい。
 研究方法は、島根県隠岐郡G村のS園を対象とし、資料収集及びアンケート調査で行った。アンケートの方法は個別面接法による聞き取り調査で1992年7月に実施した。調査対象者はS園入所者55名中、外出、入院等を除く46名である。性別は男性15名(32.6%)、女性31名(67.4%)であり、年齢は60歳代2名(4.3%)、70歳代10名(21.7%)、80歳代25名(54.3%)、90歳代7名(15.9%)である。