認知は感覚的情報のみによって成立するのではない。それ以外の様々な情報が認知の成立に影響を与えている。そこで問題になるのは,この非感覚的情報と感覚的情報とがどのように統合されて,最終的認知を導くのかということである。語認知の諸問題もこの問題設定の下に位置づけることができる。一般にある言語体系において出現頻度の高い語は認知されやすい。この出現頻度効果は,言語体系との接触から獲得された出現頻度に関する情報の,認知に対する影響を示している。Broadbent(1967)は,古くから検討されてきたこの問題を反応基準のバイアスにより説明した。その後,理論的に整理され,より包括的なモデルが展開されてきている。また,語は単独に呈示するよりも,文章の中に,または関連する語とともに呈示する方が認知されやすい。この意味的文脈効果も,語の前後の文脈という狭い範囲でではあるが,非感覚的情報の影響を示すものである。Rumelhart(1977)は,この現象にも出現頻度効果と同じ説明をしている。そこで,本稿では,出現頻度効果のモデルの発展を概観し,さらに様々な課題状況下での文脈効果を検討するととにより,出現頻度効果についての説明がどの程度文脈効果に適用できるのか,若干の考察を試みてみたい。