島根大学教育学部紀要

ダウンロード数 : ?
島根大学教育学部紀要 42別冊
2009-02-27 発行

世代間コミュニケーションと歴史教育 : 歴史物語『梅松論』の継承と変容

Education of History and Intergenerational Communication : Succession and Transfiguration of “Bai-shou-ron” (梅松論) as a History
ファイル
内容記述(抄録等)
 歴史物語は,中世になると初学者を対象とする歴史教育,世代間歴史教育の教材としても享受された。その多くは,「枠物語(Rahmenerzahlung)」形式をもつが,その外枠部分に世代間格差が顕現し,世代間交流の実相も描出されている。また,『大鏡』『今鏡』『増鏡』などの主要作品では,外枠の世代区分が内側の歴史叙述部分の時代区分と連動して有効に機能している。
 『梅松論』は,中世後期の歴史物語の小編であるが,完全な枠物語形式を保持して,正統な歴史物語の性格をもつ。一方,歴史叙述の対象年代である鎌倉時代(「先代」)を固定的に捉えて歴史意識が微弱である点,諸本間の異同が大きい点では先行の歴史物語と相違する。この特色に注目して,『梅松論』の序文の諸本間の変化を「先代様」の理解によって検証すると,京大本→天理本→流布本と推定書写年代が下るに従って,枠物語の外枠部分が,世代間格差を是正し,世代間教育に適するように変容していったことが明らかになる。 ここに,世代間コミュニケーション,世代間歴史教育の一つの典型が見いだせると考えられる。
DOI(SelfDOI)