島根大学教育学部紀要. 教育科学

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島根大学教育学部紀要. 教育科学 23 1
1989-07-25 発行

体育における言語的教示に関する研究

A Study on the Verbal Instruction in Physical Education
小玉 耕平
中山 正吉
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内容記述(抄録等)
今日,「楽しい体育」は体育の望ましい在り方を表わす一つのモデルとして定着するようになっている。体育に限らず,授業が楽しいものであることは子供の学習の効果を促し,かつ学習の意欲を高めるものである。中でも,授業における楽しさは,教育の目的や教師が携わる指導の面においても重要である,課題の達成と密接に関連するものである。それはまた,佐藤が述べているように,学習意欲を鼓舞していく源泉となるものであり,体育の授業の場合,「”できるようになっていく”“わかるようになっていく”楽しさということになる。」これを教師の側からみれば,運動の法則や運動と人間の関わりを子どもたちにわかるように,そして運動技能が向上するように教えていくことになろう。本稿はこの課題の達成に関わる指導の中でも,特にできるようにするための言語による指導,すなわち運動技能の指導における言語的教示を問題としている。
 運動技能の指導の方法には間接的な学習方法上の問題と直接的な指導に関するものがある。前者は練習時間の配分や課題の分割,グルーピングなどによる方法であるが,後者は学習が何を媒介として行われるかに関わるものであり,その具体的な指導は,言語による指導,視覚的指導,運動感覚的指導,メンタル・プラクティス等が挙げられる。むろん,これらは同時に行われる場合もあるが,特に体育の授業では言語による教示は簡単な掛声,感覚的なことばから詳しい説明まで運動技能の指導過程全般にわたって行われており,運動技能の指導において重要な位置を占めている。この言語的教示に関しては授業実践の場において工夫が重ねられているが,未だ経験的レベルに止まっているようである。杉原は,言語的教示の効果に関する科学的・実証的研究が少ない背景として指導者の間に,言語的教示が非常に有効であるという暗黙の了解があることを指摘しているが,それだけでなく,体育の授業では,いかに運動の仕方を子供に正確に詳しく説明し,またその示範を行うかということに重点が置かれていたからでもあろう。そこでは,子どもの理解を導き,運動のイメージを描かせ,動きを変えていくような言語的教示の方法の探求はあまり顧みられなかったように思われる。本稿では,そうした反省の下に,体育における言語的教示の中でも特に運動技能の指導における言語的教示の特性,教示と言語表現との関連について考察するとともに,それに基づいて体育授業における言語的教示の分析を試みるものである。