島根大学論集. 教育科学

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島根大学論集. 教育科学 11
1962-03-15 発行

学校ダンスの在り方についての一考察

A Study of School Dance
碓井 えい子
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内容記述(抄録等)
今回の学習指導要領の改訂にともない、体育科の学習指導要領も幼稚園→小学校→中学校→高等学校と系統的なものに改訂せられた。
 従来、体育とはいかなるものかという問題については、いろいろの見解があり、体育の概念規定が必ずしも統一せられているとはいえない状態にあったが、今度の「改訂指導要領」では、「体育は全人教育としての身体活動」として新しい概念規定が打ちだされ、その理論体系にも一応の統一がみられるよラになり、学校教育の中に体育がはっきりと位置づけられることになった。
 体育の一分節であるダンスも、この新しい体育観から、幼稚園→音楽リズム。小学校→リズム運動。中学校→ダンス。高等学校→舞踊創作,と名称づけられ、はじめて幼稚園から高等学校までの発達段階に相応した体系づけがなされたのである。
 しかし、この変革ぼ突然的に現われたものではない。戦後アメリカから移入せられたいわゆる「新教育」の一環として昭和22年に公布せれた「学校体育指導要綱」の中に、、今回の「改訂指導要領」の精神はうかがえるのである。ただ戦前の教育観と戦後の教育観の相違があまりにも大きかったために教育実践が完全に切りかえられなかった。いわば過渡的混乱状態を示していたとみるべきであろう。昭和22年の「学校体育指導要綱」でぼ、教材の形で示された内容に基づいて、各学校が自主的に指導計画をたて、指導者の創意工夫によって実際の指導がなされるように要請せられたのであるが、戦前の「遊戯」(「唱歌遊戯」「行進遊戯」)的感覚、教授中心(教材中心)的指導形態から完全な脱皮ができないまま指導していた一というのが現場の実態である。
 新教育が出発して十数年経過した今日でも学校ダンスがどうあるべきかについては種々の見解や傾向がみられる。旧い伝統的体育観から児童の身体的発達を重視する傾向、レクリエーションに重点をおく傾向、芸術性の追求にのみ走る傾向などみられ、しかも各々の立場から他を批判しているという混乱状態を呈しているのが実状である。
 このような現場の混乱を解消する意図で示されたのが、今回の「学習指導要領」の改訂版である。
 この「改訂指導要領」に示された学校ダンスの内容は、(1)文化の伝承とみられる型のものを、そのまま指導するフォークダンスの系統(幼稚園、小学校低学年では歌を伴う遊び)。と(2)文化の改造とみられる表現(幼稚園、小学校低学年では模倣)とに類別される。学校ダンスの目標や指導のしかたは、新教育の精神を基盤として我が国の実情に即したものである。即ち日本古来の遊戯、芸術的舞踊、外国より移入した遊戯、体操、及び古典バレエより近代モダンバレエに至るまでの芸術的舞踊等、それぞれの時代思想、時代感情をうつしながら幾変転を経て今日にいたった「伝承的遺産」ともいうべき性絡をもつものの中から、児童、生徒の欲求と運動活動に結びつくもの、協力的人間関係が要請されるもの、文化財としての価値の高いものなどが選択せられて、学校ダンスの性格を規定しているとみたいのである。
 したがって今日の学校ダンスで、「指導要領」の趣旨にそった指導を行うためには、その内容のもつ歴史的背景の洞察と理解が必要であると考えられるので、この小論では、「体術」という名で体育を称した明治初年から今日までの発展過程と、その背景となった致育思潮の変遷を考察することによって、現行の学校ダンスの在り方を方向づけようとするものである。