島根農科大学研究報告

ダウンロード数 : ?
島根農科大学研究報告 12
1964-01-10 発行

「島根ぶどう」の発展と市場

The Development of "Shimane Grape" Culture and the Marketing
猪股 趣
ファイル
内容記述(抄録等)
 最近所得水準の向上に伴う食糧消費構造の変化によって,果樹作部門は畜産部門と並んで成長農産物の双へきにあげられ,農業構造改善の掛声とともに全国各地においてこれら部門の主産地形成が進められている.
 島根県は従来水稲・和牛・薪炭生産を中核とした農業経営形態を有していたが,昭和36年に県総合振興10ヵ年計画が策定され,いわゆる成長農業生産部門を導入することによって農業構造を改善しようとしている.
 中国地方の果実生産を見るに,鳥取県は二十世紀梨の生産で名声をはせ,岡山県はマスカット・水蜜桃等豊富な果実を生産し,広島県は西条柿,山口県は夏ミカンと隣接する諸県はいずれもその名産地となっているが,ひとり島根県はこれといえる代表的果実をあげるに困難な状態であった.
 県総合振興10ヵ年計画によれば,果樹部門は成長農産物の筆頭にあげられ,年率16.2%の伸びで昭和45年度には栽培面積5,000haを目標とし,中でもぷどうは砂丘地帯を中心に1,000haを予定している.これより先,県当局は昭和35年8月農林部に特産課を新設し,果樹を中心とする特産物の振興を打ち出してきた.
 島根ぷどうはかかる環境にあって急速な伸びを示し,栽培面積,出荷量ともに大きく飛躍した.特に昭和35年より始まり,36年より本格的となったジヘレリン処理による「種なしぷどう」は出荷先の京阪神,九州方面の各市場で圧倒的人気を得,ぷどう栽培に対する各方面の認識も深くなってきた.
 本稿は島根ぷどう栽培の歴吏をふりかえって発展の歩みを理論的に考察し,市場支配の強化のための手段としてとられた共販の実情を中心として市場流通分析を行なうこととする.