隠岐牧畑は前述の通りわが国において珍しい農業のやり方である。その特徴については従
来多くの文献が詳説している。錦織英夫氏は,(1)強制耕作,(2)土地所有の分散と経営地の分
散,(3)村民の放牧権平等と牧柵修理等の義務負担,(4)土地所有,耕作,放牧の相助関係,(5)経
営の粗放性を挙げられている。細川善麿氏の説も大体以上と同様である。久保佐土美氏の牧畑
の特徴は西欧穀草式との比較であるからこれを省く。中野正雄氏は最近の報告で,(1)牧畑耕種
生産の自給性,(2)経営の零紬性,(3)牧畑の兼業性,(4)牧畑の耕種生産から養畜生産への重点移
動,(5)経営の粗放性,(6)農業技術の停滞性と跛行性等について述べられている。又牧畑の衰退
については田中豊治氏の論文がある。
以上の如く牧畑の特性については既に種々述べられているが,これらは何れも適当な指摘で
あり,、肯定されなけれぱならないであろう。しかしわれわれは今回の調査の結果,最も重要な
性格がぬけているように考えざるを得なかつた。それは牧畑の低生産性である。牧畑の低生産
性こそ牧畑の諸現象を解くのに最も重要な鍵であると考える。牧畑の衰退現象も,牧畑の農家
経済における従属的地位もこれによつて理解が容易である。故にここでぽ牧畑の低生産性を中
心として,牧畑農業の経営的特質を究明することとする。