戦後,わが国の地域開発政策は工業主導で展開されてた.とくに,昭和30年代後半以降の高度経済成長期には,その傾向は一層強まった.こうした工業主導の地域開発政策のなかでは,国民経済における農業の位置づけや地域開発における農業の果すべき役割が正当に与えられておらず,ただ,工業・資本は農業・農村の土地,労働力,資本(水)を一方的に把握して発展してきたといえよう.その結果,都市における公害発生や農山村における過疎化など,多くの深刻な社会問題が表面化してきている.
こうした問題に対処するために,政府は工業の地方分散政策や特定地域の振興策を打ち出してきているが,いずれも対症療法にとどまり,その体質の変革がないかぎり真の解決は見い出されないであろう.(2)とくに,最近,うち出された農村地域の工業導入政策は,農山村地域において,農工併進どころか,工業発展,農業衰退といった傾向すら示しはじめている.
戦後のこうした状況の中で,農業サイドからの開発政策が登場しなかったわけではない.たとえば,「農業基本法」下で実施された農業構造改善事業がそうである.しかし,農業構造改善事業は生産と生活の環境の諸条件改善に必要な施策を総合的,有機的に講じなければならないとしながらも,現実には,農業生産事業の偏重や対象地域の局地性などから,農山村の地域開発に限界があった.
一方,農山村地域においても,地域住民の異質化がとみに進み,住民の「生活」要求は,対立・多様化するなかで強まり,これまでの産業開発中心の考え方に転換を必要としてきている。また,政府も,経済成長のひずみ是正のため,経済開発と社会開発をセットにし,しかも広域的な圏域の設定を志す傾向を示してきてはいるが,行政合理の視点で問題にされている場合が多い.地域開発は地域住民の生産・生活合理の視点からすすめられなければならないのは当然である.
これに,最近の世界的な食糧生産の逼迫や公害問題などの追いうちがかかり,国民経済における農業の位置づけが再認識されはじめ,農業・農村サイドから総合的,有機印な地域開発政策の策定の必要性が叫ばれている.
したがって,本稿の課題は,農業・農村サイドから地域開発政策をうち出す場合,政策的な農山村地域の開発方式をどのような諸要素をからめて設定したら妥当であるかについて,農山村地域の統計的実態をふまえながら,その点を明確にしようとするものである.