島根大学農学部研究報告

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島根大学農学部研究報告 3
1969-12-15 発行

素材生産資本の存在形態 : 山元伐出業の機能について

A Study on the Situation related to Capital of Lumbering
北川 泉
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内容記述(抄録等)
山元伐出業者は,山元における素材および「ばん」の直接生産者と下流問屋との仲立的商人として現われ,交換の両極に入って,「商略と欺瞞」とによって「譲渡利潤」を獲得するものであるが,この素材取引による利潤は,「流通」がまだ「生産」を把握するに至らない段階,いわば,素材ないし「ばん」生産が,すでに与えられた前提条件として,「流通」に対立しており,それを伐出業者が遠隔地向けの商品として把握することによって「商品」たらしめるのである。
 したがって,少なくとも明治20年代までは,山元の伐出資本は,その機能の面で問屋的性格を多分にもったものとして理解される.すなわち,資金前貸を通して山元の買子や仲買人を自己の支配下に抱せつすると同時に,伐出労働の「組組織」をも前貸によっそ支配するという形さえもとって現われ,流通商人としてのみではなく,「高利貸資本」としても立ち現われるのである.だが,このことをもって,山元伐出業者と買子ないし労働者との関係が「封建的関係」にあったということはできない.主要な関係は「契約関係」によって成り立っており,身分制を伴なったものではない.いわゆる「経済的強制」という限りで近代的関係というべきであろう。
 しかしながら,市場関係が未成熟であり,商品・貨幣の流通が,杜会的再生産過程の主要部分とならずに,多分に偶然性によって左右されているような段階,とくに流送という輸送事情に注目するならば,「商略と欺瞞」による利潤抽出が,これら商人に可能となるのである。
 このような,山元伐出業の優位性は,前述のような段階において,商品流通が限られ,その中で買子や先手を自己の支配下におく条件が存在していたことによるのであって,明治も30年代に入ると,下流商人による山元進出がみられ,やがて商品流通の範囲と密度が高まり,個別的商人の数も増大し,これら相互の競争の結果,しだいに「譲渡利潤」の範囲はせばめられ,等価交換を成立させる方向への過程は,やがてそれら伐出資本の形態にも変貌をよぎなくさせるのである.これらの点に関しては別稿で論じたいと思う。