目 次
は じ め に
石西地域の林業と益田市場の展開過程
育林生産の構造
素材生産流通構造
製材工場の動向
地場建築の動向
産地化と成熟化への諸条件
地域林業の開発方向を考える場合たえず問題となるのは,開発ないしは発展を如何なるイメージで捉えるかということにかかわる点である.通常,開発ないし発展が問題となるのは,現実の地域林業が未(非)開発,未発展状態にある,という事実認識を出発点としている.そして多くの場合その原因は地域林業の後進性にあるとされてきたのである.すなわち開発=先進⇔未開発=後進という図式が成立する.その結果後進地域の開発目標は先進地域に追いつくこと,その「おくれ」をとり戻すことにおかれ,そのための手段として先進地がこれまでおこなってきた蓄積を短期間のうちに獲得することが撰択される.
しかしながらこうした考え方は,事実認識として誤りであるばかりか問題を一つも解決せずに,より一層困難な問題を惹起するおそれがある.
少なくとも今日,後進的といわれている地域(ここで対象とする石西地域もそうであるが)はけっして後進的でも未開発でもない.後にみるように,少なくとも戦後30年代までは,坑木,パルプ材,マツ平角製品の大量生産がおこなわれていたし,その過程で広大な天然林の伐採がみられた.その結果今日ではそれらのほとんどが(特に天然マツ大径木)開発しつくされたとも考えられるのである.
石西地域の林業は今日けっして未開発状態にあるのではない.過去における開発が主として外部資本により狙われてきたため,その結果,地域の自立的林業発展を阻害してきたところに今日の困難性が存在するのである.
しかしながらこうした開発のすべてを否定してしまうこともまた誤りである.たとえそれが外部資本による開発であれ,地域内に一定の生産組織を成立させ,一定の機能を果してきたことは事実である.しかしながら問題はこうした生産組織の機能がたえず部分機能にとどまり,地域内の林業生産すべてにかかわるものでなかった点にある.
かかる状態を我々は,地域林業の未成熟な状態−未成熟林業地域と呼ぶことにする.
したがって本論文の目的は,かかる未成熟な状態にある石西地域林業を成熟化させるための諸条件を提示することになる.
そこで以下,石西地域,なかでも益田市場の展開過程を概観し,次いで育林生産の構造を考察し,さらに素材生産流通構造,製材工場,地場建築の動向を分析した上で,産地成熟化の条件を提示することにしたい.