島根大学農学部研究報告

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島根大学農学部研究報告 12
1978-12-15 発行

水田総合利用の推進と地域農業発展の条件

The Promotion on Diversified Utilizations of Paddy Fields and the Conditions of Development on Regional Agricultures
平塚 貴彦
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内容記述(抄録等)
 昭和53年度から10年計画で実施される,水田利用再編対策(いわゆる第2次減反政策)は,昭和53年度~55年度の第1期に,毎年39.1万ha,170万t,13.4%に及ぶ米の生産調整を行うとしている.その背景には,米の需給関係不均衡の激化がある.
 昭和30年代以降のいわゆる高度経済成長の過程で,食糧消費構造は大きく変化し,国民1人当たり米の消費量は昭和37年をピークに年々減少し,今日なお減少傾向が続いている.米の消費量の減少が一時的なものでなく,構造的であることは,若年層の消費量が絶対的に少ないだけでなく,彼らの消費量の減少がとくに著しいことからも十分理解される.米はまた,需要の所得弾力性値が(−)0.71で,完全な劣等財になっている.そして,現状では米とパンの代替性は小さい(朝パン,昼雑食,夜米という食生活パターンの定着)うえに,米需要の価格弾力性値も(−)0.03ときわめて小さいので,一般にいわれるように米の消費拡大を,米とパンの相対価格関係の変更によって行う方法も,相当むずかしいだろう.
 とすれば,稲作農業を守るためには,減少する米の消費量をある程度所与の条件として,生産量の調整によって需給バランスを図るしかなく,その意味では水田利用再編対策は,米生産者にとって,止むを得ない措置であると考えねばならないだろう.かりに生産調整を実施しないとすれば,上述の背景からみて,稲作農業はまさに構造不況に突入することになると考えられる.
 さて,そうした状況をふまえて,本稿では水田総合利用の推進をとりあげるのであるが,そもそも水田総合利用の推進は,今日の水田利用再編対策を契機としてではなく,高度経済成長による食糧需要構造の変化を背景に提起された,日本農業の生産構造改善と生産力発展のための,一貫した古くて新しい政策課題である.しかし,米作偏重からの脱却,総合的食糧自給カの向上に対する農業政策は一貫性を欠いていた.
 そのため,水田総合利用は次第に衰退し,個別経営や地域農業の発展にも結びつかなかった.本稿では,政策批判や政策論議はさておき,水田総合利用がどうすれば可能なのかを,地域農業および個別経営の発展という視点(従来この視点が欠除していた)から考察する.すなわち,第1に水田総合利用の目的・意義,方向を整理する.第2に水田総合利用と地域農業とのかかわり合い,水田総合利用を地域農業との関連でとらえることの意味を明らかにする.そして,第3には水田総合利用を推進し,地域農業を発展させるための条件を,体系的に整理して提示する.
 また,第3の課題は,過去水田総合利用が進展せず,著しく衰退してきた理由を明らかにし,同時に今日的課題である水田利用再編対策推進の諸条件を検討することにもなるのである.