昨年(一九九七年)の五月一日に行われた総選挙において、イギリス労働党は地滑り的勝利を収めて、一八年ぶりに保守党から政権を奪還した。ブレア首相が率いる労働党政権の下で、イギリスの労働法改革が将来的にどのように行われるのかは、サッチャー元首相によって行われた大胆な法改革を経験した後だけに、イギリス国内はもとより国際的にも注目されるところである。ただし、その際に注意しなければならないことは、労働党自身が既に政権に就く前から指摘してきたことであるが、将来的に予定される労働法改革は、法を前保守党政権による改革が行われる前の状態、すなわち一九七四年から七九年までの前労働党政権時代に制定されたいわゆる「社会契約立法」の状態に単純に戻すことではないことである。このことは、とくに集団的労働法の場面において、サッチャー政権によって制定された労働組合を規制する立法的枠組みを基本的にはブレア労働党政権が今後とも継承していくことを意味している。
さて、本年(一九九八年)の五月二一日に将来の労働法改革の方向性を示す基本的文書である白書「職場における公正」(Fairness at Work, Cm3968)(以下、白書という)がようやく公表されるに至った、この白書の公表は永らく待望されていたが、その内容は労使関係の当事者双方を必ずしも十分に満足させるものとはなっていないようである。そこで本稿では、この白書の分析を通して、現代のイギリス労働法が抱える課題を整理するとともに、これらの課題を解決することを目標として将来的に展開されることが予測されるイギリスにおける労働法改革を展望することを試みたいと思う。