Journal of social systems

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2001-12-25 発行

「出雲国正税返却帳」覚書

Note of"Izumo-no-kuni Shozei-Henkyaku-cho"
File
a010006h006.pdf 2.13 MB ( 限定公開 )
Description
『平安遺文』一一六一号には、九条家本延喜式巻十の裏文書として伝来している承暦二年(一〇七八)の「主税寮出雲国正税返却帳」と名づけられた文書が収録されている。
この文書については、はやく虎尾俊哉・高橋崇両氏によりその史料的性格について分析が加えられ、延久二年(一〇七〇)度・三年(一〇七一)度・四年(一〇七二)度・承保元年(一〇七四)度および年度不明の五年分の出雲国の正税返却帳であり、それぞれの文書の断簡が九条家本延喜式巻九・巻十の裏文書として残存しており、そのうちほとんど欠落なく残存しているとみられる延久二年度の正税返却帳が『平安遺文』に収録されていること、残り四年分も延久二年度の正税返却帳とほぼ同内容であるらしく、同時に承暦二年付で作成されたものらしいこと、などが明らかにされている。
両氏の研究をふまえ、村井康彦氏が平安中後期国家財政の分析にこの文書を用い、近年では、佐々木宗雄氏が十~十一世紀の位禄制の構造をこの文書を用いて分析している。しかし一方で、違う年度にもかかわらず同内容の五通が同じ日付で作成されているらしいこと、しかも延久二年の税帳勘会から八年もたって作成されているらしいこと、長保五年(一〇〇三)以降半世紀以上にわたって勘出がないことなど、史料的性格や内容に多くの問題をはらんでいる。本文書を、平安中期の国家財政や地方行政、受領功過などの制度や実態を分析する素材とするためには、史料学的検討を深め史料的性格をより明確にする必要があると思われる。
最近鹿内浩胤氏が原本調査をふまえて九条家本延喜式そのものの成立について考察し、そのなかで本文書を含む紙背文書との関係にも言及されているが、正税返却帳そのものを検討したものではない。虎尾・高橋両氏の研究以来、紙背文書としての残存状況の具体的な提示、復原や、五通の文書間の対比などは十分には行われていない。本稿では、東京国立博物館所蔵九条家本延喜式裏文書の写真にもとづいて、紙背の現状を検討し、改めて五通の出雲国正税返却帳の復原とその対比、特徴の分析を行い、史料的性格を明らかにするための素材を提供したい。