ころがり−すべり接触下の摩耗は,ころがり軸受,歯車やカム,その他多くの機構部に共通の重要な問題である。歯車の歯面やローラなどの摩耗は,その現象が多種多様で,また多くの因子が複雑に影響し,現象のは握をいっそうむずかしくしている。
摩耗の発生や摩耗量を支配する因子,たとえば材料の機械的性質,表面あらさ,摩擦力及び潤滑油などとの関係については,これまでにいろいろの条件のもとで研究が行なわれ,数多くの報告がなされているが,一般的な理論や法則は,いまだ明確でない点が多い。
先に筆者は,歯車の摩耗機構を検討する目的で,脆性材料の鋳鉄のローラ試験片を用いて,ころがり−すべり接触下における摩耗が,すべり率の変化により,いかに影響されるかについて検討を加えてきた。すべりを伴うころがり接触の場合には,すべり摩擦力が接線力として作用し,接触面および接触面下近傍の応力分布を変え,接触部の応力は一般に大きくなる。このことに関連して,摩耗と材料の機械的性質との関係を検討する必要があると考えられる。
そこで本報告では,延性材料である軟鋼のローラ試験片を用いて,すべりを与えた場合と,すべりを与えない純粋ころがり接触状態の場合の摩耗の現象や発生機構を検討するために,摩耗試験を行ない,接触面の変化および塑性変形の及ぶ範囲の観察と考察を行なった。