Memoirs of the Faculty of Education. Literature and Social science

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Memoirs of the Faculty of Education. Literature and Social science 25
1991-12-25 発行

「呂氏春秋」の義兵説 : 「墨子」「司馬法」との対比

The Theory of War in Lushi Chunqiu (呂氏春秋) : The Comparison with Mozi (墨子), Simafa (司馬法)
Yuasa, Kunihiro
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 戦乱止まる所を知らぬ覇者の時代を、孟子は、「春秋に義戦無し」(『孟子』尽心下)と批評した。孟子の考える戦争とは、有徳の王者のみに許される正義の誅伐だったからである。しかし、侵略戦を推進する戦国諸国に於ても、その軍事活動が何故に正当性を持つのかという問題は、決して閑却されていた訳ではなく、この孟子の王道論とは異なる立場からも様々に追求されたはずである。特に、強大な軍事力を背景に次々と他国を制圧し天下統一を推進する秦にとっては、危急の課題の一つであったとも言えよう、
 この秦の軍事思想を考察する際、看過し得ない基礎的文献として挙げられるのは、宰相呂不韋が食客数千人に編纂させたという『呂氏春秋』である。この『呂氏春秋』に関する従来の研究では、その成立事清、体系性の有無、秦の始皇帝との関係、各篇の編者や思想の特色など多様な問題が取り上げられているが、軍事思想という観点からの考察は極めて少ない。しかしながら、『呂氏春秋』の全体像を把握し、その思想的特質を解明するためには、儒家、法家、道家といった思想的枠組のみではなく、こうした観点も、不可欠の視角になり得ると考えられる。
 そこで、本稿では、『呂氏春秋』の全体像を解明する手掛かりの一端として、『呂氏春秋』における軍事思想に着目し、その思想的特質を検討してみることとしたい。