直接話法は一般に特定の話者の発話を可能な限り忠実に再現して伝達するための表現形式で, 通例もとの発話者の発話を再現する「直接引用部(direct quote)」と, その直接引用部が発話された際の発話者の状況を説明する「伝達部(reporting clause)」とからなる。伝達部は「伝達動詞(reporting verb)」と呼はれる動詞を含むことが多い。
(1)"I'm waiting for Ann," he said.
(1)では "I'm waiting for Ann" が直接引用部, he said が伝達部, said が伝達動詞である。
本稿では, 直接話法の役割である特定の発話を忠実に再現することとはそもそもどういうことかを確認した上で, その役割を果たすために, 直接引用部や伝達部においてどの様な工夫が凝らされるかを具体的に検討してゆく。