島大法學

島根大学法文学部
ISSN:0583-0362
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島大法學 38 2
1994-08-31 発行

国際司法裁判所の一断面

Considerations on the International Court of Justice
牧田 幸人
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内容記述(抄録等)
  昨年五月一五日、世界法学会が青山学院大学で開催された。学会において、「国際裁判の今日的意義」という統一テーマのもとで、筆者は報告者のひとりとして、「国際司法裁判所の役割」と題する報告の機会を与えられた。報告のあとの質疑において、二つの有益な質間、すなわち、横田洋三会員(国際基督教大学教授)から国際司法裁判所(以下、ICJまたは裁判所と略記)の構成と強制的管轄権受諾国とをリソクさせることの是非について、また中谷和弘会員(東京大学助教授)からWHOが核兵器使用の違法性問題に関してICJに勧告的意見を要請したことに関連して、要請の背景や妥当性などについて質間をうけた。後者の質間の主題について、学会当日、筆者はそのニュースを知りえていなかった。現在、この問題は多くのひとびとの関心を集め注目されているが、国際法とくにICJを主な研究対象としている筆者にとってもきわめて興味深い間題であり、多々検討を要する重要な問題であると認識している。
 本年四月九日に、世界法廷運動日本センター発足記念集会が、東京の主婦会館において開催された。この集会は、これまで「世界法廷運動」(World Court Project)に積極的にとりくんできた、日本国際法律家協会、核兵器の廃絶をめざす関東法律家協会、日本原水爆被害者団体協議会の三団体が、国際的に展開されている世界法廷運動の国内における中心的な運動組織としてのセンターを設立するために開催されたものである。世界法廷運動は、「国際法に照らして、核兵器の使用は許されるかという問題を、国連の機関である国際司法裁判所(世界法廷と略称)に判断させる運動」、あるいは「世界法廷(国際司法裁判所)で核兵器の違法宣言をさせる運動」ととらえられ、位置づげられている。集会では、各国政府を通じて世界法廷へ陳述書を提出することを求める、民間陳述書の案文も発表され、それは、原爆被害の杜会的側面、原爆被害の医学的側面、核兵器の国際法的側面について検討し論述するものであった。これは、その後、世界法廷運動日本センターにより、広島・長崎の原爆被害の概要、核兵器による被害の医学的考察、国際法による核兵器使用の違法性を主な内容とする、民間陳述書としてまとめられた。
 右の集会において、筆者は、藤田久一氏(東京大学教授)の紹介により、「国際司法裁判所とは -- 世界法廷運動の理解のために-- 」というテーマについて、講演の機会を与えられた。本稿は、そのときの講演内容を基礎にして、その後の主題に関する新聞報道記事などにも留意し、若干の部分に加除等をおこない、文章化したものである。
 講演テーマに関連しては、とくにサブタイトルが含意する主題である、核兵器使用の国際法における違法性(あるいは合法性)問題に留意するとき、この問題は研究者の間でもさまざまな角度から検討し、論議すべき多くの論点を含んだ、きわめて重要な現代国際法上のテーマであり、これに真正面から十分にアプローチすることは筆者の能力をはるかに超えることがらである。集会においては、筆者にたいして、とくに、世界法廷運動に関連して、ICJの基本枠組や機能について、また核兵器の違法性をICJで判断させることの意義について簡潔に話すよう要請されていた。さらに、これに関連して、事前に、日本原水爆被害者団体協議会より、ICJの任務、構成、管轄権、審理手続などに関連するいくつかの質問事項を提示していただいていた。こうした事情もあり、本稿においても、まず、ICJ設立の歴史的背景や地位、組織、管轄権などについて概観し、その後で、ICJにおける勧告的意見管轄権、審理手続、勧告的意見の法的性質などに論及し、最後にWHOによる核兵器使用の違法性問題に関するICJへの勧告的意見要請、これにかかわる諸国の対応、陳述書の提出などについて、若干の論点をとりあげながら論及してみたいと考える。