本稿は、アメリカ刑法における共犯責任原理に関する第二論文として、A・ロジャース「意図によらない犯罪に対する共犯責任−意図の制約内に止める」を紹介するものである。ロジャース論文は、意図によらない犯罪に対する二次的行為者の有責性の妥当な範囲の探求を課題とし、共犯責任原理の核である「意図の要件」の意義を検討分析する。その概要を示すと、第一章では共犯責任およびその主観的要件の一般論を明らかにし、第二章において意図によらない犯罪への共犯理論の適用の歴史的経過を検討する。第三章では、意図によらない犯罪に対する共犯責任が妥当か否かを問い、共犯の原則的要件に照らせば、二次的行為者が計画していない害悪を生ぜしめる非難可能な行為の遂行を助ける意図をもっている場合に限り、共犯責任が認められると結論するとともに、さまざまな共犯法が意図によらない犯罪に対する共犯責任の「意図の要件」を十分に明確化しているのか否かを分析する。さらに、裁判所は一般に片っ端から意図によらない犯罪に対する共犯を認めているが、それは共犯責任の「意図の要件」を誤解しているのが原因であるとする。
ロジャース論文は、一九八五年の Joshua Dressler 教授および Sanford H.Kadish 教授の論文(特に後者)に刺激を受けて執筆されたものであり、前回紹介した論文も併せて、Kadish 教授の見解に共通する点も多いように思われる。そこで、当初の予定とは異なるが、次回これらの論文を紹介し(最新の文献があればそれも加えて)、アメリカ合衆国における「意図によらない犯罪に対する共犯」の成否と成立範囲に関する議論を総合的に検討することとしたい。