島大言語文化 : 島根大学法文学部紀要. 言語文化学科編

ダウンロード数 : ?
島大言語文化 : 島根大学法文学部紀要. 言語文化学科編 9
2000-07-31 発行

『トリストラム・シャンディ』と結婚

Tristram Shandy and Marriage
能美 龍雄 イギリス言語文化研究室
ファイル
a007009h007.pdf 1.58 MB ( 限定公開 )
内容記述(抄録等)
夏目漱石は『トリストラム・シャンディ』を評して、「尾か頭か心元なき事海鼠の如し」と述べているが、この作品のとらえ所のなさはこれまで多くの批評家を悩ましてきた。その中にあって、Northrop Fryeは、この作品は「アナトミー(解剖)」というジャソルに属する、すなわちメニッポス的言諷刺の伝統に属するとしている。時代が下がってMelvyn Newは、Augustan satiristの系譜に連なるとしている。1996年Garry Sherbertは、この作品をメニッポス的諷刺作品と捉え、作品の分析を行っている。我が国でも鈴木善三氏が、『イギリス諷刺文学の系譜』において『トリストラム・シャンディ』はメニッポス的諷刺の伝統に連なるとし、諷刺本来の「雑物」としての特色、すなわちジャンルの混交、話中頓絶法的断片構造、対話、時事性、真面目と不真面目の混在、詩文混成体等、メニッポス的特性を詳細に指摘している。このような解釈が大勢を占めているわけではないが、諷刺的要素を見逃すわけにはいかない。
ところで、受胎時にすでに人の生涯は始まっているという、当時としては特異な観点から、この作品は受胎のための夫婦の営みについての言及で始まっている。同時代の他の作家の作品との問には決定的な差異がある。正式な作品名『紳士トリストラム・シャンディの生涯と意見』で「生涯と意見」としたことと同様、この作品が同時代の「生涯と冒険」をタイトルとする作品のパロディであることは明白である。冒頭が夫婦の営みということからも推測されることであるが、結婚あるいは結婚生活はこの作品における重要問題の一つである。諷刺を論ずるにあたり、上記の著書はこの間題に触れていないので、諷刺という観点から、結婚問題に限定して、この作品の考察を行うことが、本稿の目的である。
NCID
AA11147571