島根大学法文学部紀要. 文学科編

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島根大学法文学部紀要. 文学科編 9 2
1986-12-25 発行

談話現象の記述に向けて

Toward a Description of Discourse Phenomena
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内容記述(抄録等)
周知のとおり,変形文法では文を分析の主たる対象として,その生成に関わる規則,原理といったものの体系化を目標としている。一方,このような流れと平行して,すでに1960年代から,そして特に1970年代から,発話行為(Speech Acts)や会話の規則(Conversational Rules)などの研究成果に歩調を合わせ、文レペルを越えた談話研究も活発になされてきている。
この談話研究については,主として3つのアプローチがある。その第1のアプローチは,談話(あるいはテクスト)を整合性のある文の連鎖として捉え,文レベルの文法とは異なる独自のCategoryを定め,その組織,あるいは型といったものを理論化しようとするものである。このアプローチは、さらに2派に分けることができ,ヨーロッパを中心に活躍するテキスト文法家達とJ.M.Sinclair,R.M.Coulthard,W.Edmondsonなど,発話行為理論を中心に据えて研究を進めるイギリスの学者達がいる。第2のアプローチは,実際のフィールド・ワークによって得られた会話資料を基に,その表面構造うんぬんというより,それぞれの資料を一つのspeech eventとして捉え,その背後にある各発話の機能を抽出しようとするものである。D.Hymesの‘the ethnography of speaking’(ことばの民族誌)という幅広い観点から談話を分析し、言語伝達能力(communicative competence)を解明しようとする流れに沿うもので,社会(言語)学との関わりも深く,H.Sacks,E.A.Schegloff,G.Jeffersonなどの一連の研究がある。第3のアプローチとしては,文を基本とする文法理論を念頭に置き,その枠組では説明のつかない言語現象について,話し手,聞き手の立場や情報構造なども考慮に入れて新たに文レベルを越えた視点からその説明を試みようとする立場がある。談話文法と文レベルの文法は互いに補完し合うものとして捉えている。
本稿は,談話研究のこれらの3つのアプローチのうち,主として第3のアプローチに沿うものであるが,理論化というよりは英語の実態をよく知るという実用的な面に目を向け,具体的なdataを基に,英語におけるいくつかの談話現象を記述していきたい。第1章では,まず談話文法の課題にふれ,それに従い,副詞(句)を中心に談話的観点からの留意点を指摘し,さらに,従来,あまり注意が向けられてこなかった‘So S V’構文を扱う。第2章では,ケース・スタディーとして,その性格上,必然的に文を越えたレベルの分析が必要となるEchoic Expressionsについて考察していくことにする。