ある一群の動詞、あるいは形容詞・名詞の後に,動名詞をとるのかto不定詞をとるのかについては、伝統文法、変形文法を問わずに一つの大きな課題である。
しかしながら,伝統文法に基づく文法書や学習英文法の立場に立つ書物においては,動名詞及びto不定詞の選択について触れられているものの,その動詞や形容詞のリストアップにとどまっているものや,両方選択するものについても,その意味の差異については、顕著なものだけ取り上げ、その説明にも一貫性が欠ける。一方,変形文法においては,最も初期の理論[Rosembaum (1967),Lakoff(1968)]では,深層構造に文を設定して,変形操作によって自動的に動名詞構文,あるいはto不定詞構文を派生させていた。その後、Kiparsky&Kiparsky(1971)に見られるように,‘Fact’という概念を導入して、意味側面をも考慮するといった発展をし、さらに,Bresnan(1972)によって,‘complementizer’(補文標識)を一つのcategoryとして,深層構造に指定しておくことが提案され,Lexicon(語彙部門)において,各lexical itemの選択素性として動名詞・to不定詞の選択がなされるといった研究を経て一応の確立が見られる。しかし,両者を選択するものについての具体的な派生過程や意味の差異について十分な説明は与えてくれていない。
また,動名詞・to不定詞の選択については,別の角度から,動名詞・to不定詞自体のもつ本質的な意味を重視し,その差異を追求しているものもある[Wood(1956)、Bolinger(1968),Leech(1971),安藤(1975.1984)、大江(1982)など]。本稿においてもこの最後に述べた立場をとり,動名詞・to不定詞の内在的意味を積極的に認めて,動名詞・to不定詞の選択は,それらと各動詞(あるいは形容詞,名詞)とのcompatibility[collocability]の問題として捉えていきたい。さらに,本稿では,実際に発話される文は,共時的に静的な(static)文法枠に,話し手が現実世界から切りとった事態を投影するといった動的な(dynamic)過程を経て生ずるものであると考え,英語において,かかる文法枠の意味を追求して改めて英語そのものの理解を深めていこうとする立場に立つものである。
具体的には,まず,動名詞・to不定詞の両方を選択し、その意味の差異,使い分けがはっきりとしない「好み」を表す動詞のうち,最も一般的なlikeに焦点をあて,動名詞・to不定詞の本質的な意味に追っていくことにする。さらに,紙面の詐す限り,動名詞・to不定詞をめぐる若干の問題にも触れていきたい。