アンナ・ゼーガースのこの作品が生まれた1928年といえば,ドイツでは資本主義の相対的安定期が終局にさしかかり,経済過程,工業生産の合理化による搾取が先鋭化した時代である。このことが文学にとって意味するものは,現実自体が芸術家にアクチュアルなプロレタリア的主題を提起するということである。しかしドイツ社会主義リアリズムの歴史におけるプロレタリア革命的特徴を明確に打ちだした作品の大部分は,そのご数年を待たねばならず,ゼーガースのこの作品も左翼ブルジョワ文学と社会主義文学の過渡的段階に位置する。
ブルジョワ出身の彼女の場合,彼女をプロレタリアートの陣営に加わらせたものは,戦中戦後の固有な体験と大学時代の精神的対決であり,特に他のヨーロッパ諸国から反革命テロを逃がれて亡命していた人びととの接触によって開かれた精神的転回であった。ということは,彼女の得た新しい世界観,新しい視野が本質的に《仲介された経験》に基づくことを意味する。このことは小論の中心テーマをなす,プロレタリアの自発的行動の評価の際特に重要である。