1.はじめに
近代の経済システムを支える生産技術と, それ以前の経済システムの生産技術とを隔てる最も重要な区別は, 前者のシステムにおいて, 個々の生産単位が協業や分業にもとづいて大規模な生産を行い, 社会的分業が広範にみられるようになったという点にある.
19世紀あるいはそれ以前の多くの経済学者はこの区別に注目した. 例えば, アダム・スミスは『国富論』のなかで有名なピン工場の例によって, 製造業における作業の細分化・専門化が生産力の増大にいかに寄与したかを論じている, この区別にかんする最も明快というべき表現はマルクスの『資本論』のなかにみることができる. すなわち,
「資本主義的生産が実際にはじめて始まるのは, 同じ個別資本がかなり多数の労働者を同時に働かせるようになり,したがってその労働過程が規模を拡張して量的にかなり大きい規模で生産物を供給するようになったときのことである. かなり多数の労働者が, 同じときに, 同じ空間で(または, 同じ労働場所で, といってもよい), 同じ種類の商品の生産のために, 同じ資本家のもとで働くということは, 歴史的にも概念的にも資本主義的生産の出発点をなしている」