核四極共鳴吸収測定の過程において,偽吸収線として発見された正体不明のピエゾラインは,水晶の単結晶にみられる系列をなす鋭いピエゾラインの性質の研究から,不完全さを持った結晶の小領域に作られる弾性振動に共鳴して生ずるものであることが暗示された。
筆者は,ロッシェル塩の単結晶について,等間隔に並んだピエゾラインの,共鳴点附近における共鳴領域の測定と共鳴周波数の解析とから,この共鳴線は,結晶の局所的な厚みすべり振動によるものであることを明らかにし,更にこのことから,弾性定数 c_<55>の温度に対する変化曲線の勾配が二つのキュリー点において,不連続に変化することを見出した。しかし,この共鳴線がどのような結晶の不完全さに基づくものであるのか,またこの局所的な厚みすべり振動がどのような機構によって励振されるものであるのかについては,まだ明らかではなかった。
今回は,これらの点を明らかにするために,共鳴点の性質および共鳴点附近の特徴等を調べ,その結果を基に,振動の姿態とこの共鳴線の成因を考察した。