島根大学教育学部紀要. 人文・社会科学

ダウンロード数 : ?
島根大学教育学部紀要. 人文・社会科学 35
2001-12 発行

大学生の子育てに対する意識

A Study on the Student's Senses of Child Care
野波 典子
猪野 郁子
ファイル
内容記述(抄録等)
 近年,少子化が深刻な問題となっており,出生率を上げるためのさまざまな対策が打ち出されている。例えば,厚生省(現厚生労働省)は,人口問題審議会報告や厚生白書で,男女の役割分業意識と雇用慣習の是正,育児と仕事の両立への子育て支援策,あるいは,子育てに「夢」が持てるような環境整備等を提案している。つまり,人々が子どもを産み育てることに楽しみや喜びを感じることが困難になっている現在の社会のあり方を問うているといえる。
 中央教育審議会は「少子化と教育について」の報告のなかで,“社会全体で子どもを育てていく”という考え方を特に強調し,現在は,大人社会のモラルの低下と次世代を育てる心が失われるという危機に直面しているから,子どもをもつ人ももたない人も,男性も女性も,家庭も企業も,社会全体が“次世代育成力”を伸ばし,発揮することが望まれるとしている。
 日本・中国・アメリカ3カ国の高校生を対象とした規範意識の比較調査によると,日本の高校生の規範意識は3国中最も低く,「自分さえよければ」という個人意識が強いことが注目される。次世代を産み育てる世代が,“次世代を育てる心”に何より必要な「他者への関心や希望」をもっていないことは,現在の少子化をさらに推し進め,加えて育児不安を訴える母親や父親をさらには児童虐待を増加させるであろう事は想像に難くない。
 子どもを産み育てることに楽しみや喜びを感じることができる環境を整えていくことが課題とされるが,子ども時代から自分より幼い者と関わる能力を養い,自分の子どもはもとより,社会の子どもの育ちに責任をもてる人間に育てるべきではなかろうか。また,次世代を育成する能力としてどういうものが考えられるのかも明らかにしていく必要があろう。
 現在,中学・高校の家庭科で全ての生徒に保育体験をさせたいとする試みもなされている。しかし,週休2日制と「総合」という教科の導入も絡んで,家庭科に与えられる時間は少なく,体験実習の時間を確保することが難しいという局面を迎えている。しかし,こうした中でも,保育体験実習の効果が大きいことから多くの教師が時間のやりくりをしてでも確保しょうとする傾向も出てきている。このことは,保育学習の内容の是非にも関わっている。
 以上のことを明らかにしていくその前段階として,ここでは,中学生や高校生よりも「次世代を産み育てる」ことにより近い場所にいる青年(大学生)らは,どういう生き方をしようとしているのか。そのことと育児のイメージはどう関わっているのかを明らかにしていく。