本研究の目標は、日本語における「助数詞」の歴史的研究であり、本稿は、その基礎的研究となる「中国古代簡牘資料における量詞の考察」の一端である(資料には、紙文書(残紙)をも含む)。
東南アジア・東アジアのシナ・チベット語族などには、いわゆる類別詞classifierによる表現が多く見られる。中国、また、中国文法では、これを量詞、助名詞、形体詞、単位詞、陪判詞などと称し、日本文法では、この類を助数詞と称する。
日本語における助数詞は、中国古代の量詞と密接な関わりがありそうである。この点につき、かつては、究明困難であり、すべて不明であるとして放置されてきた。というのは、それらの量詞は、文法的にその役割は極めて低く、口語に用いられても文言文には登場しない、口語資料を得ない限り、文献の教えるところはゼロに等しい、即ち、元以前の口語における量詞のあり方については、すべて不明であるという他ないとされたのである。ところが、今日、中国の各地から戦国時代から隋、唐代にかけての簡牘類や紙本文書等が出土し、これらによれば、そこには量詞が積極的に使用されているという事実に直面する。これらの資料は、多くが記録文、通信文、目録・リストや帳簿の類である。それぞれの言語量は、決して多いものではないが、もとより、口語資料ではない。これらの量詞については、どのように考えるべきであろうか。
中国古代の量詞を考えるためにも、また、それと日本語の助数詞との比較研究を始めるためにも、まずは、中国古代の量詞についての実態を調査しなければならない。そこで、筆者は、次のような簡牘資料、および、紙本文書等により、用例の収集と分析を行うこととした。