島根大学教育学部紀要. 人文・社会科学

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島根大学教育学部紀要. 人文・社会科学 22 2
1988-12-26 発行

英語日常語彙の社会言語学的研究

A Sociolinguistic Study of Everyday English Words
山田 政美
田中 芳文
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内容記述(抄録等)
 近年「異文化」を問題とする動きが活発であり,英語教育の分野にもそれを志向する徴候が出てきた。わが国で使用されているもろもろの英語教育教材を見てみるとき,異文化,特にいまの一つの比較対象となる英米の文化の扱い方にはかなりの問題がある。あるいは,それらの教材を利用して実際の授業にあたる教師が十分な理解を得るにはあまりにも表面的な記述をするものが多い。英米の文化に浸ってそれを観察した経験がある教師にとっては問題は比較的少ないと思われても,そうでない教師にとっては書かれた資料によることが多いとなれば,英米の文化がどのように記述されているかを検討することを始めねばならない。
 英語・英米文化の少し新しい扱い例を Mainstresm I (高等学校用文部省検定済教科書)で見てみると,すぐに目につくのがいわゆるファーストフード文化を扱った課である。脚注(p.24)では
  fast food「ファーストフード」ハンバーガー,フライドチキンのように注文してすぐ出てくる食品.
  French fries(米)「細長く切ったじゃがいものから揚げ」日本でふつう「フライドポテト」と呼んでいるもの。英国ではchi psという.
のような記述がある。おおよその情報は誤っていないとしても,教授する側にとってこれだけでは十分ではないはずである。この fast food の食文化が一般化した年代から考えてこの表現そのものも新しく,<RHD>^2 では初出年を1965-70年としている。しかし,いわゆるこのカテゴリーに入るかと思われるものがそれまでまったくなかったかといえば,そうではない。たとえば1850年代に出たBoston baked beans が組み込まれた baked beans and brown bread は "an early home-delivered 'fast food'meal for Sunday eating"(Flexner 1982:63)なのである。かなりの解説が『ジーニアス英和』にあるのはよいが,「米国の hot dogs,(ham)burgers,fried chicken」という例示でよいのか,つまり pizza が欠落しているのはよくないとか,fast-food restaurants の多くは driveins であることを理解している必要があるとか,この種の代表的なレストランには pizza に関連しては Pizza Hut があること(およびアメリカ社会で一般的なその他の pizzeria の固有名詞と背景的情報)を知るとか,などを考えると,やはり断片的な記述と言わざるを得ない。さらに,「日本の立食いそばなどが代表格」という記述も無理がある。French fries についても,なぜ French が入った表現であるのかがあまり書かれていない,といった問題がある。
 本稿では,特に次のことを大まかな目安として,取りあえずはアト・ランダムに項目を拾い上げて検討をしてみたい。
  (i)主に日常語彙を取り上げる。外国人の立場から考えた場合にいわゆる“survival English”と呼ばれるものの中に対象の 多くがあると思われる。
 (ii)日本語・日本文化と英語・英米文化との対照研究として意味があるものを取り上げる。日本語・日本文化に取り入れられ たものであっても,本来のそれとは大いに異なる意味用法と文化をもつものも多いことは,たとえば日本語の中の借用語 ,俗にカタカナ英語とか和製英語と呼はれるものを考えれば容易に察知できると思われる。