島根大学教育学部紀要. 人文・社会科学

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島根大学教育学部紀要. 人文・社会科学 11
1977-12-25 発行

教育保障とその経済的基礎

Educational Security and Its Economic Foundation
山本 眞一
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内容記述(抄録等)
 生活の単位として,家族があり,血縁的・情愛的結合のもとに経済生活上の共同体として世帯を構成しているが,資本主義経済制度の発達に応じ彼等のもつ唯一の方法としての労働力の販売の実現が必要条件であり,それなくしては生活手段を持たないがゆえに飢える自由を意味する。このいわゆる二重の意味での自由な労働者は資本主義のもとにおける窮乏化の進行過程にあって,それは「資本が蓄積されるにつれて,労働者の状態は,彼の給与がどうあろうとも−高かろうと低かろうと−悪化せざるをえないということになる。最後に相対的過剰人口または産業予備軍をたえず蓄積の範囲および精力と均衡させる法則はヘファイストスの楔がプロメテウスを釘づけにしたよりも一層固く労働者を資本に釘づけにする。だから一方の極での富の蓄積は,その対極では,すなわち,自分自身の生産物を資本として生産する階級の側では,同時に貧困、労働苦,奴隷状態,無知,野生化および道徳的堕落,の蓄積である」とマルクス(K.Marx)がのべた窮乏化の貫徹の下におかれている。このいわゆる窮乏化の諸現象形態としての無知に関してみれば,知識の進歩についていけない状態としての相対的無知及び絶対的無知の蓄積があり、クチンスキー(J.Kuczynski)のいう「かってのギルドの徒弟や職人たちはすべて各自の手工業を学ぶほかに手工業の経営術も学んだのであった。ところが資本主義下の労働者たちは,その雇われている経営の内情についてはその全般を知り得る地位におかれていないし,しかもそういう地位からはますます遠ざけられつつある。」という形態での進行がある。それは今日資本の管理体制としての職務給の導入及びその細分,分断化に顕著にみられる所であるが,資本の剰余価値確保追求からなる必然的所産である。又,周知のように特殊な商品としての労働力を販売し,労働力の価格としての賃金をもって生活に要する生活財を購入する以外の方策を持たない彼等の上には相対的過剰人口の増大の下,賃金は労働力の価値以下への切り下げの圧力が貫徹する。現在も続く労働力の下降移動,最近特徴的といわれるパートタイマー,臨時工,日雇等顕著に証明される。それは労働者階級のおかれている以上のような状態にあって各々の家族一世帯間での競争,同様に家族内における,すなわち妻が,子供が「彼の生活時間を労働時間に転化させ,彼の妻子を資本のジャガノートの車輪のもとに投げ入れる」といわれる所の,すなわち夫の労働力と競争を余儀なくされ,一層賃金低下を加速させるということであり,結果として各々の労働者は労働力の販路,有利性を求めて個々的努力を志向する。それは精神的,肉体的諸能力の総体としての労働力を相対的に有利な立場に位置させようとする現象といえるであろう。その労働力の質的向上を促進するために有利な労働力販売条件を確保しようとする。では現実に彼の労働力の価値評価としての学歴が貧困としての賃金及び労働条件の格差とどのようにかかわっているのであろうか。又,一方で教育の機会均等が家計とどのようにかかわり就学保障という社会政策的な現実はどう位置づけられるか以下検討してみたい。
 それはとりもなおさず前述した労働者家族の生活状態の経済的側面への考察といえよう。