島根大学教育学部紀要. 教育科学

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島根大学教育学部紀要. 教育科学 35
2001-12 発行

異化の詩教育学 : 存在型の受容指導

A Study on Poetry : Teaching in Alienation Effect
足立 悦男
ファイル
内容記述(抄録等)
 本研究は、「異化の詩教育学」という仮説的な理論の継続研究である。本稿では、前稿「教材編成の理論と方法」(『島根大学教育学紀要』第34巻)で提示した教材類型の中で、存在型の詩を教材化したときの授業モデル(受容指導)について考察する。存在型の詩教材とは、モノ・コトの存在感を表す詩であった。そして、存在型の受容指導とは、この型の詩教材をとおして、モノ・コトの新しい見方・見え方を発見していく詩の授業である。
 本稿では、その典型的な教材として、「こゆび」の詩(低学年)、「うんこ」の詩(中学年)、「火事」の詩(高学年)の三つの実践を取り上げる。「こゆび」「うんこ」はモノ型の詩の、「火事」はコト型の詩の代表例としてである。子どもたちにとって、「こゆび」は目立たないモノ、「うんこ」は汚いモノ、「火事」はいやなコトである。そういったマイナス・イメージをもったモノ・コトが、詩の方法によって、どのように意味的に、価値的に、イメージ的に変容して表現されているか、そして、どのような詩の世界に生成されているか、という学習の成立している実践を授業モデルとする。
 取り上げる授業例は、すべて文芸研の実践である。文芸研の実践は、西郷文芸学の虚構論をふまえている。虚構論とは「現実をふまえて現実をこえる」という理論である。西郷文芸学の虚構論は、詩の世界において、異化の世界の創造に導く理論である、と私は考えている。