島根大学論集. 教育学関係

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島根大学論集. 教育学関係 6
1956-02-21 発行

家族の情緒的構造 : 農村の家族研究の序曲として

The Emotional Structure of the Family : As the Prelude of the Study into the Agricultural Family
溝上 泰子
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内容記述(抄録等)
家族は社会学的にみれば,集団の一つである。そして,家族を他の集団から区別する根本的な特徴は,それが,直接生物的条件にうらづげられ,その構成,機能,結合の性質,生活環境としての意味等が,自然的条件の強い影響をうけていることである。しかし、家族はさらに丈化的,経済的条件にも依存している。従つて,家族は一方では有機的必然に根ざしながらも,他方ではすでに,それを超えた社会的,文化的構成物となつている。これが,家族が歴史的過程において,時代的に異なる形態と構造をもつ所以であろう。従つて,家族研究はその形態,構成,結合,機能等の歴史的変化の様相を明らかにすると共に,それら相互の構造関連をたづね,さらに進んで,家族の形成と発展とを支配する究極の要素,即ち家族の自然的,生物的条件と文化的,社会的諸条件の作用と意味を明確にすることである。しかし,本論文は家族の杜会学的究明に重点をおくのではなく,むしろ教育学的な観点からこれを問題にするものである。
 「教育学的観点から」とは,家族の「社会的機能の立場から」ということを意味する。歴史的に人間の集団としての家族がいかに変化していようとも,家族は依然として原初的集団(Primary group)である。そして,人間がそこでうまれ,そこでの六,七才までの経験が人間の性格に深い影響を与え,就学までに一定の性格ができあがるという(Groves,E.R,Social Problems of the Family,P,4)ことは,今日,一般に認められている事実である。しかも,家族において性格乃至人格形成の中心問題になつてきたものは,家族内の人と人との関係,即ち家族関係(family relation or family-tension)の問題である。この問題は杜会学,法律学の領野のものでもあるが,親子の愛情、信頼関係,夫婦の愛情関係,兄弟の相剋,嫁姑の葛藤などの問題は別の領野に属する。これらのものは家族という原初的集団における人々の直接的結合,協力によつて特徴付げられ,ルース・シヨーンレエ・キヤバンのいう”Intimate face-to-face associatin and co-operation”から生ずる問題である。(Ruth Shonle Cavan,The Family,By primary groups I mean those characterized by intmate face-to-face association and co-operation.They are primary in several senses,but chiefly in that they are fundamental in forming the social nature and ideals of the individual.P.31)おそらく、この問題は心理、哲学、宗教、教育学の角度から究明せられるべきであろう。本論文が家族関係を教育学的、心理学的、哲学的観点からとりあげた理由はここにある。さらに,農村杜会の家族関係を問題にすることは,これが如何に複雑な野蕃性をもつかを明らかにし、これを農村問題,生活革命の解決の一つの推進力にしたいからである。