島根大学論集. 教育科学

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島根大学論集. 教育科学 7
1957-03-30 発行

児童生徒の問題行動に対する教師の態度に関する研究(第三報告)

A Study of the Teachers' Attitudes towards the Behavior Problems of Pupils(No. 3)
小川 一夫
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内容記述(抄録等)
從来の教育心理学的研究の多くが,教師の問題を等閑にふして,とかく児童生徒のみを対象化する傾向にあることに批判的でありたい。「教師と生徒の間に成立する心的解明」こそ教育心理学の主要課題であろう。「教師自らの心理の解明なくして,児童の心理も教育方法も解明できない筈である」と考えて,我々は先ず,Wickman,E,K,以来数多くの人々によつて取上げられてきた問題行動に対する教師の態度を,わが国の教師に追試した結果,やはり精神衛生家の態度と違つて,明瞭な非行や,攻撃的な態度や,学習の進展を阻止するおそれのある行動を重視し,従順な引込思案的・内閉的な態度や,退行的な行動を軽視しがちな傾向を認めることが出来た。
 ところで,精神衛生家が内攻的な問題行動を重視するにも拘らず,教師はむしろ進攻的な行動を重視することからして,「教師の態度ぼ素朴である」と結論づける傾きが今迄のWickman研究にあつた。我々は精神衛生家と教師の立場のちがいを直視し,従つて精神衛生家を規準として教師の態度を評価するのでなく,学級経営の場に立つ教師独自の問題としてこれを究明しようとした。即ち,教師の態度を,進攻的な問題行動を重視するものと,内攻的な問題行動を重視するものとに類別し,かかる教師の基本的態度の差異が,学級経営の面で如何に顕現するかという課題に取組んだ。そしてさきの第二報告ではその分節課題として,教師が担任学級の社会構造を観察する場合(第一課題)と,児童が担任教師に対する場合(第ニ課題)とを取上げ,教師の基本的態度に應じて如何なる差異があるかを検討した結果,第一課題からは,内攻的な問題行動を重視する態度の教師の方が,学級の人気児童は勿論のこと,排斥児童にも,また孤立児童にも広く眼を1向け,彼等をかなり正しく観察しているのに反し,進攻的な行動を重視する態度の教師にあつては,人気児童や排斥児童はまずよいとして,孤立児童を見誤る傾向の大であることが判明した。なおそれは排斥児童と孤立児童に対する未分化な態度として現れていることも考察された。かくして学級の児童観察の点で,内攻的問題行動を重視する態度が教師の基本的態度としてすぐれていることを明白にうかがい得たが,第二課題については,二つの学級を抽出しての予備研究にとどまり,まだ充分な解明を果し得ないままであつた。
従ってこの第三報告では、担任教師に対する児童の態度を、二つの教師の基本的態度に於て比較検討することを継続したい。而して、もし内攻的問題行動重視の教師の側に、すぐれた教師―児童の人間関係が見出されるならば、内攻的問題行動重視の態度が、精神衛生家の態度に類似しているからからでなくして、むしろ教師独自の学級経営の立場に於てすぐれた機能をもたらすが故に、望ましい教師の態度として強調されねばならないであろう。