検査状況も一つの人間関係的状況である。今かりに同じ検査材料が繰り返して同じ対象に与えられたとしても,そのときどきの検査状況を構成している被験者一検査者の具体的な人間関係は決して一様ではない。’またその際の被験者と検査者とが同一の組合せであっても両者間の関係は常に一定であるとはいい難いのが普通である。このように検査状況を一つの人間関係的状況とみるならば、ある検査に示された被験者の応答は,検査材料という刺戟とともに検査者という人間的刺戟をも加えた複合的刺戟に対する反応とみなされなければならない。ある検査者からは貧困な反応しか示さなかった被験者が別の検査者からは極めて豊富な反応を示すことはしばしば観察されるところであるが,この例などは検査状況における被験者一検査者の人間関係の親疎にもとづいてあらわれたものというべきであろう。似た例は検査の信頼性を検討すろ際の手続の中にも見出すことができる。この場合,検査の繰返しによってひきおこされる検査結果の変動は,検査そのもののもつ信頼性にも依存しようが,検査の実施にあたった検査者の変化によって生ずることも否定できない。すなわち,これらの検査結果の変動はそのときどきの被験者一検査者の人間関係枠の差異にもとづくものと考えられる。
このように検査者が検査結果に重大な影響をもたらすことは,臨床家なら誰しもが等しく強調して止まぬところである。そのためにも身近かにある検査手引書は必ずといってよい程,被験者との親和感,被験者に対する親切・寛容・激励など検査者のとるべき態度についてふれている。しかしこれらの検査態度の強調はあくまでも一般的な強調であり,要請の域を出ないものであり,その点で実証的裏付けを欠ぐものといわざるを得ない。この意味からも検査者の影響の問題はテスト臨床上重要な位置をもつものと考えられる。
筆者はさきの論文(19)において,従前の関連する諸研究(1,2,5,6,8,9)を概観したあと,Gibbyらの先駆的な研究(3,4)に反省を加えて行った実験結果を報告したことがあった。今回の報告では,その後行ったいくつかの実験結果(16,17,18,20,21,22,23)を整理して,検査者の影響の問題を検査者の性と検査態度の面から明らかにしようとした。また一つの試みとして,被験者を「テスト不安」でラベルした場合の検査者の影響もあわせてみようとした。